災害弱者を抱える介護施設等では、災害時に避難のタイミングを間違えると大きな犠牲を生みます。管理者の危機管理能力が試される場面です。いざというときの判断力をどのように養っていくか、それは平素の地道な努力しかありません。
管理者として平素の災害対策で気をつけることは何か。それは、施設にどんなリスクがあるのか、そのリスクを軽減していくにはどうするべきかを考えながら一つひとつクリアーしていくことです。以下、その進め方について述べてみたいと思います。
優先的に取り組むべき災害は何か
まず、自分の施設の立地条件(活動層付近、地盤が柔らかい、傾斜地、造成地、裏山が崖、土砂災害警戒区域、河川の近く、低地など)を知ることです。また、過去発生した災害も調べることです。
そして、こういう立地条件の中でどういう災害によってどういう被害を受ける確率が高いかを想定します。このようにして優先的に対策をとる災害を特定していきます。
リスクを洗い出す
被害を想定したら、避難をするのにどういうリスクがあるか、困難なものは何かを漏れなくピックアップします。
そこでどうすればいいか。まずは事態を想定してみることです。例えば、施設が人里離れた閑静な場所にあり、約100m離れた場所に2級河川があり、集中豪雨でその川が氾濫し、施設も浸水する可能性があると仮定します。
施設は2階建て、入所者は18名、その中には短い距離は歩行できる者、歩行は困難であるが車には座れる者、移動にはストレッチャーが必要で車にも座れない者、施設職員は10名、管理者(あなた)は出張中とします。
そこでこのような事態を想定した上でどのようなリスクが潜んでいるかを洗い出します。まず浸水被害が1階だけか、2階まで及ぶのか、これが心配です。2階まで浸水するようであれば、別の場所に移動しなければなりません。
それではリスクを洗い出していきましょう。
・ 現在いる職員の中で誰が指揮をとるのか(決めていない)
・ 氾濫情報をどうやって入手するのか(具体的に決めていない)
・ 2階に避難してとどまる判断、施設外に避難する判断をどのようにするのか
(判断基準を決めていない)
・ 職員の役割分担、避難方法はどうするのか(具体的に決めていない)
・ 移動車両は足りるのか(用途に応じた車両がない)
・ 職員の対応能力はどうか(教養や訓練が不足している)
・ 決めていた避難場所に避難できるか、それ以外に避難場所はあるのか(第
二、第三避難場所を決めていない)
・ 避難場所までの経路が寸断したらどうするのか(ほかのルートは決めていない)
・ 他の施設や住民の支援をどうやって求めるのか(根回しはしていない)
リスクを軽減するために
今、リスクを洗い出しました。次にこのリスクに対して何を重点的にやっていくかです。もし、施設を3階建て、4階建てにリフォームすれば上階に避難するだけでリスクが軽減できるでしょうが、資金面で困難な面があります。
そうすると、このリスクに対応する優先順位は、①具体的なマニュアルの作成②そのマニュアルの職員への浸透③教育、訓練の実施ということになってきます。裁判で管理者の過失が問われるところは、まさしくこの部分です。
具体的な対策
マニュアルの作成
マニュアルは、立地条件、施設の実態に応じて具体的に作成する必要があります。作成例を真似して抽象的なものにならないようにしてください。
特に上で挙げたリスクについては、職員と一つ一つ詰めながら不備な点を事前に決めておく、そうするといざというときに役に立ちます。
役割分担
災害時の役割分担としては、統括責任、情報収集・連絡、救護、避難誘導、補給等が考えられますが、それぞれの班で事前協議をさせることが大切です。
内容は、どういうことが起こり得るか、どういう困難があるか、それにどう対応するか、班員が揃っていなかったらどうするか、これらを一つ一つ検討し、全員で意思統一を図っておくことが必要です。
連絡体制
災害時に職員の参集をどうするのか、事前に緊急連絡網を作成しておく。災害が発生すれば、通信が途絶えたることも予想されます。そのため、どの時点で職員に連絡を入れ、待機させるのか、参集させるのか、その目安を決めておく必要があります。
避難場所・避難経路
施設外の避難場所は、災害の種類、状況に応じて選択できるように複数設定しておく。例えば、系列施設・協力施設、市町村が指定する施設、民間の高層ビルなど第二、第三の避難場所を複数設定しておくことが必要です、
設定にあたっては、事前の根回しや協定書を取り交わすことも考えるべきです。
避難経路は、道路の損壊・寸断、河川の氾濫、建物の倒壊など不測の事態に備え、避難場所までの複数の経路を設定し、併せて避難経路図を作成することも大切です。
避難手段
徒歩避難が困難な利用者に対して必要な自動車数を割り出しておく。その際、座位が保てない利用者には、必要な車両について介護タクシーや近隣施設、地域住民に協力を依頼しておくことが必要です。
避難方法
利用者の避難方法(自動車、徒歩、車イス、ストレッチャー等)、集合場所、避難の順番、介護員数等を整理しておく。グループ分けしておくことも必要です。
避難訓練
緊急時に適切な対応ができるかどうかは訓練にかかっています。それに訓練は職員の意思統一を図るうえでも大切です。
特に管理者は、体制が弱い夜間に発生したことを想定した訓練も必要です。
介護サービスが多様化している中、逆に人材不足が慢性化しています。日常業務に追われているのが現場の実情だと思います。
しかし、一番のサービスは何でしょうか。それは安全・安心の提供です。何とか工夫しながら訓練時間を確保してください。僅かな時間でもけっこうです。要は、いざというときに職員それぞれが自分の役割を果たせるよう、意識付けることが大切です。専門家の教養や研修会を取り入れることも、その意識付けには有効です。