• 主に長崎県、佐賀県を中心に元刑事のキャリアを活かし行政書士&災害危機管理に取り組んでいます。

グループホーム火災の教訓

過去のグループホーム等の火災

 平成18年の大村市のグループホーム火災、21年の群馬県渋川市の老人ホーム火災、22年の札幌市のグループホーム火災、25年の長崎市のグループホーム火災、25年の福岡市の診療所火災など、高齢者が入所あるいは入院する施設で火災が発生し、多数の犠牲者が出た事件を記憶している方は多いと思います。

火災の特徴等

 私は、現役時代、多くの火災事件捜査に携わってきました。火災原因は失火、自然発火、放火など様々です。建物火災では、例えばライター等で可燃物に着火した場合、10分前後で出火します。出火とは、炎が燃え広がり、火災になるために火が勢を持った状態のことをいいます。それから「火盛り」「焼け落ち」「鎮火」と進んでいきます。
 実は、火災で怖いのは煙です。火災で拡散した煙は最初は白く、そして黄色に変わり、最後は黒煙に変化していきます。この煙の中には有毒物質が含まれており、特に一酸化炭素(CO)が最も多く、ごく微量の濃度で、一瞬のうちに体の機能を停止させ、短時間で死に至ることがあります。
 上記のグループホーム火災等で犠牲となった高齢者の方のほとんどが一酸化炭素中毒死です。この煙は、水平方向に進む速度が1秒間に0.3~0.8m(人の歩く速さ)、垂直方向に進む速度が1秒間に3~5m(早めに走る自転車の速度)ですので、火災時に階段を上ることは危険です。
 燃焼は、可燃物(燃えるもの~木材、紙など)、着火源(火気、火花など)、酸素(空気中の酸素)が揃ったときに起こります。一つでも欠けたら燃焼しません。ですから着火源を遮断(消火器、スプリンクラーなど)したり、空気を遮断(防火扉など)したりして消火するのです。

火災時の人の行動 

 火災原因の中で、てんぷら鍋に火をかけたことを忘れてしまい、外出して帰宅したら鍋から火の手が上がっていたという事例はよくありました。そのとき、その人がとる行動は、とにかく火を消すことに集中します。無我夢中です。
 自分の失敗から家を失いたくない、人に迷惑かけたくない、その思いで火を消すことを優先します。消防に通報することなど二の次です。ほとんどが周囲の人が気づいて消防通報しているのが現状なのです。
 それだけ人は二つ以上のことは同時にできないのです。それだけではありません。人によれば、呆然として何もできない人もいます。
 犠牲者を出したグループホーム火災では、夜間の当直職員が一人で、火災発見時には火勢も強く、消火設備も充実していないという過酷を極める中で現場で対応にあたったのです。

介護施設等の防火対策にどのように取り組むか

 火災の原因には、放火やたばこの不始末のほか、電気器具、電気配線のショート、トラッキング、太陽光の集光など、予期せぬ出火もあります。いつ、どういう形で火災が発生するかわからないということです。
 特に要支援高齢者が利用する介護施設等の経営者の皆様は、このことを意識し、そのための準備を怠らないことです。人手不足が慢性化し、今でも夜間の当直職員は一人という施設もあると思います。そのとき火災が発生したらどうするか考えていますか。
 歩行困難な高齢者、視覚障害・聴覚障害を持った高齢者、認知機能が低下した高齢者を抱え、火災発生時に避難誘導するのは大変な作業です。一人の職員ができることは限られています。もしかしたらパニックになって何もできない職員だっているかもしれません。
 ですから、物理的にカバーするしかないのです。先のグループホーム火災ではその反省点を踏まえ、自動火災報知設備やスプリンクラーの設置義務など、その都度消防法が改正されていったのです。
 利用者を守り、職員を守り、施設を守っていくには、一つには非常時に職員一人ひとりが迅速な行動がとれるよう、判断力・行動力を身につけさせることです。それは日頃の教養と訓練しかありません。
 二つ目は、設備を充実させることです。利用者を助けたい、職員に過酷なことをさせたくないと思うならば、ハード面を強化していくしかないのです。

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