• 主に長崎県、佐賀県を中心に元刑事のキャリアを活かし行政書士&災害危機管理に取り組んでいます。

震災体験者の重い言葉

震災現場を目の当たりにして

2011年(平成23年)3月11日に発生した東北地方太平洋沖地震による大規模な地震災害及びこれに伴う福島第一原子力発電所の原発事故による未曾有の災害をもたらした東日本大震災。

発生当初は全国各地から警察、自衛隊、消防隊員等が被災3県に派遣され、行方不明者の捜索や生活支援等の任務にあたりました。当然、本県警察からも管区機動隊員をはじめとする多くの警察官が派遣されていきました。

派遣開始から半年ほど経った頃、私は部下の管区機動隊員への激励を兼ねながら、震災対応等を学ぶために福島県と宮城県に出張しました。長崎大水害、雲仙普賢岳噴火災害を経験しましたが、この東日本大震災はけた違いの規模であり、現地において津波が残した生々しい爪痕や街が一変した状況を目の当たりにすると、改めて自然の猛威を感じずにはいられず、決して自然に対して傲慢になっていはいけないことを再認識させられました。

また、両県警察からそれぞれの震災対応について説明を受けましたが、誰も経験したことがない大規模な災害に直面し、あらゆる社会機能が麻痺した中で対応していく困難さ、それを克服するための努力や工夫、災害対応から生まれたアイデアや技術等、それぞれの県警が体験した貴重な話を伺うことができ、大変有意義な学びとなりました。

当たり前の反対語

この出張には個人的に楽しみにしていることがありました。それは友人である福島県警のS君に会うことでした。S君は警察大学校時代の同期ですが、震災時はある警察署の幹部として陣頭指揮を執っていました。

福島県での視察を終えた夜、そのS君と一杯やることにしました。震災発生から半年が経ち、S君もようやくひと段落したため、久しぶりに会うことができたのです。

S君と福島のうまい酒を酌み交わしながら、いろいろな話をしました。その殆どが震災対応の壮絶な話でした。発災当時は不眠不休で極限の状態になりながらも必死に頑張り、毎日が気が張り詰めた状態だったということでした。特に福島第一原子力発電所が水素爆発したとき、発電所の近くの施設に救助に向かったときの話には胸を打たれました。

S君の話は経験した者でなければ語れない貴重なものばかりでした。そのS君がふと「当たり前の反対語って知ってるかい?」と尋ねてきました。私が「知らない。」と答えると、S君は「ありがとうだよ。」と教えてくれました。

「当たり前の反対は『有り難し』だろ。だからありがとうなんだよ。」と説明してくれました。それからS君は次のことを語り出したのです。

「この震災で何もかもがなくなったんだ。水も出ない、トイレも使えない、食事もままならない、洗濯もできない、着替えもできない、それに寝るところもないんだ。それに周りを見渡しても何もないんだ。これまで当たり前にあったものが何もかもなくなったんだ。

1か月位が経った頃だった。署の近くにあるコンビニが再開したんだよ。その頃は官舎に帰れるようになっていたんだ。官舎に帰る前、そのコンビニに立ち寄ったら、おでんがあったんだ。久しぶりに見るおでんだ。そのおでんを買って帰ったんだ。

そして官舎でそのおでんを食べたんだ。食べるときには正座をしたよ。有り難くて、正座をしなければ食べれなかったんだ。そのおでんを食べたとき、涙が出てくるんだよ。もう止まらないんだ。これほどおいしいおでんを食べたことなかったよ。

震災前はコンビニのおでんに感謝したことはなかった。それがこの震災を経験し、当たり前にあったことが実は尊いことだとわかったんだ。当たり前に感謝だよ。」

S君の目には涙が溜まっていました。私もその話を聞きながら、ついつい涙が溢れていました。二人の酒はいつしか涙酒となってしまいました。

S君は本当に大切なことを私に教えてくれました。日頃気にも留めていないこと、当たり前にあることに慣れてしまい、それでも満たされていないと思うことが多々あります。そこに欲が生まれます。感謝しなければならないことはそこかしこにあるのに、それを忘れています。失って初めて気づくのかもしれません。

もしかしたら、自然は人のエゴに警鐘を鳴らすために意地悪をしているような気さえするときがあります。

 

 

 

 

 

 

 

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