被災者の思い
日曜の昼には「タビ好き」という番組があります。演歌歌手の前川清さんとお笑い芸人のえとう窓口くんのコンビが九州各地を巡り、人々から話を伺うという番組です。
このタビ好きは、前川さんが田舎の路地裏を散策しながら、アポなしで家庭に飛び込み、いろいろな話を引き出すところに特徴があります。そこには笑いあり、喜びあり、悲しみありの人生ドラマが語られ、大好きな番組です。
今日(11月22日)のタビ好きは大分県日田市を舞台にしたものでした。日田市は平成29年7月に発生した九州北部豪雨により筑後川が氾濫し、大きな浸水被害を受けた町です。前川さんは3年前にも同地を訪れ、被災された方の様子を伝えていました。ですから今日のタビ好きはいつもと趣が違い、復興というテーマが前提にありました。
そして番組後半には、3年前に訪問した方を再訪問するという感動の場面がありました。その方は震災前に酒屋を営んでいましたが、店舗が水没してしまい、3年前に訪問した際は、仲間とともに復興に向けて頑張っている姿やカフェを開店するための準備をしている様子も放映されていました。
現在、酒屋は廃業し、またカフェは存続していたものの、コロナ禍で休業中ということでした。その方は、被災してからこれまでの心境を前川さんに語っていましたが、その中で私が気になった話がありました。
その方は、「震災当時は知らない人から『頑張ってください。』と言われるのが嫌でした。これまで頑張ってきたのに、まだ頑張れというのかと思うと、嫌な気分になりました。」と当時の心境を吐露していました。
私はこの話を聞き、刑事の現役時代のことを思い出しました。当時は、事件の被害者や遺族の方の心情にどのように寄り添うのか、このことがよく問われました。被害者に対する事情聴取にしても、思い出したくない部分や機微に触れる部分などを聴取する必要があり、捜査の必要性と被害者・遺族の心情への配慮とのバランスが難しいところがありました。
知らず知らずのうちに被害者の気持ちを傷つけていないか、その心情を汲み取っているか、気を配る必要がありました。ショックのあまり、何も話せない被害者の方も現実にいるため、その気持ちに寄り添って話を聞くということは本当に難しいことでした。
また、災害現場も何回も経験しましたが、被災された現場には呆然自失としている人や泣き叫んでいる人、途方に暮れている人など、いろんな人を見てきました。このような被災者にどのような言葉をかけたらいいのか、迷うことがありました。
被災者に寄り添うとは
番組でその方が言われたとおり、私たちは安易に「頑張ってください。」と言うことがあります。その人にとって、関係が深い人や同じ苦しみを味わっている人から言われたら、その言葉は本当の励ましに聞こえるかもしれませんが、同じ土俵にいない人から言われると、逆に嫌な思いをすることがあると思います。何もわからないくせにと思うかもしれません。
同じ境遇にいる人とそうでない人とでは、同じ言葉でも受け取り方が違うということです。私たちは、相手の立場に立って物事を考えたり、自分を相手に置き換えて考え、その上で声かけをする際には言葉を選ばなければならないということです。
それが被災者に寄り添うということじゃないでしょうか。言葉というのは難しく、相手を喜ばせることもあれば、傷つけることもあり、そういう意味からすれば、言葉には不思議な力があるのに気づかされます。
ですから、悲しみに暮れている人や落ち込んでいる人に接したとき、無理に励ましの言葉をかけるのではなく、その人の目を見て黙ってうなずくことが、却ってその人の心に響くときがあるのです。私たちは感性を磨くことが必要かもしれません。
最後に、前川さんが「今はどう変わりましたか?」と尋ねたところ、その方は「人に感謝することが増えました。」と述べていました。恐らく当初はなぜこういう目に合うのかと天を恨んだであろうし、愚痴もこぼしたでしょうが、時が経てば人に感謝する気持ちに変わっていったということです。そんな気持ちになれたのには、その方にしかわからない経験をしたからだと思います。
前川さんも涙ながらに黙ってその人の言葉を聞いていたのが印象的でした。