• 主に長崎県、佐賀県を中心に元刑事のキャリアを活かし行政書士&災害危機管理に取り組んでいます。

介護施設の新型コロナ危機対策

感染対策と危機管理

新型コロナウイルス感染対策については、緊急事態宣言中は外出自粛、休業要請等によって一定の効果がありましたが、緊急事態宣言解除後は再び感染が爆発的に拡がり、今では「第2波」が到来しています。

介護施設は、利用者やその家族にとって欠かせないものであり、感染対策に万全を期した上で必要な介護サービスを継続して提供していくことが求められています。

ところが、全国各地の介護施設で集団感染が相次いで発生しました。集団生活を送る介護施設では、誰かが感染した場合、他の入所者や職員に感染が拡がっていく危険性を孕んでいます。特に高齢者が感染すると重症化しやすく、クラスターが発生すれば、地域の医療崩壊に繋がる恐れもあります。

施設内で「感染しない」「感染させない」ことは大切なことです。しかし、いくら万全を期したとしても感染するリスクはゼロではありません。ですから、感染者が出ることを前提として、その場合にどれだけ感染者を減らしていくか、どのようにして介護体制を維持していくか、その対策が重要になってきます。

この新型コロナウイルスはまさしく未曽有の災害というべきであって、危機管理にとって新たな課題です。施設内でウイルス感染が発生すれば、入所者の生命・身体に危険が及ぶし、事業継続にも大きく影響します。

そこでクラスターが発生した一つの事例を参考にし、この見えない敵からからどのようにして利用者を守り、経営を守っていくか考えてみたいと思います。

クラスターが発生した介護士施設の概要

これから紹介する事例は、私が直接調査したわけでもなく、あくまでも報道等によって知り得た情報から考察するものです。

本年4月から5月にかけ、富山市の老人保健施設で大規模なクラスターが発生し、入所者41人と職員18人の合計59人が感染し、12人が亡くなっています。

この施設では、4月3日に施設で最初の発熱者が出て、その後初めて感染者が確認された4月17日までに20人以上の発熱者が出ました。搬送された入所者の中には尿路感染症、通常の肺炎と診断されたこともあり、施設側は保健所に連絡をしていませんでした。

4月17日にPCR検査で最初の陽性者が出たため、それ以降毎日救急の医師が派遣されていましたが、本格的な立て直しのためには長期の医療チームの派遣が必要と判断され、そこで4月25日から富山大付属病院の医療チームが派遣されました。

チームが派遣されたときは、施設には28人の感染者を含め、51人の入所者がいましたが、それに対応したスタッフは僅か5人(施設長、看護師2人、介護士1人、事務員1人)だったということです。60人余の全職員のうち、大半は濃厚接触者で出勤停止となっていたほか、感染を恐れて出勤を控える職員もいたため、人手は極限の状態でした。

最低限の食事と水分摂取、清拭もできず着替えも下着くらいで、介護崩壊ギリギリのところで踏ん張っていたということです。

まずは感染防止を徹底するため、重傷者を他の病院に移し、そして感染者と未感染者を分けるゾーニングもフロア別に分離しました。

感染者全員を転院させることができなかったのは、当時、県内の感染症指定医療機関である病院でもクラスターが発生し、医療機関の受け入れ態勢が逼迫したこと、それに治療ばかりでなく介護も必要な感染者を転院させると院内感染のリスクが高くなるという懸念があったことから、重症にならない限り、施設で治療と介護を行うこととしました。

5月2日には応援の介護職員等が派遣され、徐々に本来の介護の姿に戻っていき、その結果、着替えや清拭で入所者の表情も明るくなり、食事も進んで元気になったということです。

疲弊していた5人の職員も休みがとれるようになり、そして5月22日には施設内の感染者がゼロになっています。

危機意識を持つべきだった

新型コロナウイルスの脅威については、高齢者や基礎疾患を持った人が感染すれば重症化することもわかっていたわけですから、特に介護施設等にあっては、初動対応に特段の注意を払わなければなりません。

ところが、4月3日に最初に80代の女性が発熱し、その後も咳や発熱者が続出している状況の中で、いくら通院した入所者が尿路感染症等と診断されたとしても、まずもって感染を疑ってかからなければならなかったはずです。実際には最初の発熱から保健所への通報まで2週間かかっています。

この間、食事については毎日60人が食堂に集まり、4人1組になって介助を受けており、また、着替えや入浴では2人の介護士で1人の入所者を介助していますが、これが1日に十数回繰り返されていました。

それに入所者の中にはマスク着装をしたがらない方もおり、これらが負の連鎖となって感染が早まったものと思われます。

この事案では、最初に発熱があった時点で新型コロナウイルス感染に疑いを持ち、保健所や市に連絡しておくべきです。いくら感染が確定していなかったとしても、その後発熱者が20人以上になるまで連絡しなかったのは、施設管理者に危機意識が乏しかったと言われても仕方ないと思われます。

早い段階で関係機関と連携した対応を行っていれば、これほどまで感染が拡大することはなかったのではと思われます。

初動対応の大切さ 

この施設では、感染者が判明した以降、最終的に僅か5人の職員で50人余の入所者に対応しています。

それは想像を絶する大変さだったと思います。使命感もあったと思いますが、入所者を助けたい、施設を守りたいという信念があったからこそ頑張られたと思います。圧倒的に少ない体制の中、最前線で必死に頑張った職員のみなさんには敬意を表します。

しかし、ギリギリの体制でできる範囲は限られてきます。医療チームがこの施設に入ったときは、ベッドの間隔を開け、カーテンで仕切っていただけの部屋もあるなど、ゾーニングが徹底されていませんでした。

この極限の体制では、入所者を移動させるには困難であっただろうし、感染対策を徹底させる余力などなかったことは容易に想像できます。

この新型コロナウイルスが介護施設で感染すれば瞬く間に拡大することがわかりました。高齢者が感染すれば、急激に悪化してあっという間に心肺停止になる方もいたようです。

今でもPCR検査体制が十分に整っているとは言い切れません。ですから介護施設において発熱者が出れば、検査を受けていない段階でも新型コロナウイルス感染だと想定し、初動対応にあたることが大切だということです。

ですから発熱者が出たら、直ちに保健所(帰国者・接触者相談センター)や市に連絡し、介助者の指定(介助職員を絞る)、ゴーグルや防護服等の準備(飛沫感染のリスクがある場合)、個室への移動(隔離)、ドアノブ等の清拭、濃厚接触者の特定、自宅待機等の措置を行うなど、次への感染を遮断させることを念頭に置いた対策を早急に打つべきです。

危機管理の要諦は、最悪を想定して動くことです。これを指揮するのは施設の管理者です。これが危機管理なのです。

連携の大切さ

また、介護施設で新型コロナウイルス感染者が出れば、それが瞬く間に拡大し、施設職員だけで対応することは困難であることがわかりました。

医療機関の受け入れ態勢も逼迫していたため、感染者を搬送できず、重傷者を除き感染者の医療と介護を施設で行うことになりました。そのため、医療との連携は欠かせませんでした。

それに職員の人手不足は深刻でした。5人のうち誰かが倒れたら介護崩壊していたということでした。5月2日に応援の介護職員が派遣され、現場も息を吹き返したようです。介護現場の人手不足が慢性化している中、お互いが助け合うことはとても大切なことです。

今では、行政側もいろいろな支援策を打ち出しています。施設で感染者が出て、介護職員が不足しているときは、県が窓口となって協力団体から派遣することができるように支援したり、感染症対策チーム(初動対応における助言などの技術的支援を行う)、医療チーム(DMAT)を派遣できるように整備しています。

それに受け入れ医療機関の病床を確保したり、軽症者の宿泊施設を確保したり、PCR検査の拡充を図るなど、行政や関係業界が連携してコロナ対策を行っています。

介護施設でコロナ対策を行っていく上では、各機関との連携がとても大切になってきます。

施設管理者の危機管理

この事例は、介護施設で新型コロナウイルス対策を行う上でのリーディングケースとなっています。この事例から導かれる危機管理は、事前対策(感染防止対策)をしっかり行っておくこと、もし発熱者が出たら、感染を疑って指揮(発生時対策)をとるということです。

この新型コロナウイルス対策も自然災害対策と基本は同じです。感染が発生した場合、どのように指揮するか、いろいろなことを想定し、それに備えておくことです。しかも最悪のパターンも考慮に入れておくべきです。

それではどのような事前対策が必要か、考えてみたいと思います。

感染防止対策

この新型コロナウイルスの感染経路は「飛沫感染」と「接触感染」だと考えられています。潜伏期間は1~12.5日とされ、感染者は14日間の健康状態の観察が推奨されています。

それに初期症状が軽い人や無症状の人もいることから、感染しているかどうかの見分けがつきにくいケースもあります。ここに感染防止の落とし穴があるのです。

感染防止対策はこのことを念頭において考える必要があります。それでは基本的な感染防止対策について考えてみたいと思います。

施設がクリーンな状態に保たれていればウイルスが感染することはあり得ません。感染するのは、外部からウイルスが持ち込まれるからです。それは

①職員から持ち込まれる

②入所者の家族(面会者・出入り業者を含む)から持ち込まれる

ことが考えられます。

家族(面会者)からの持ち込みについては、面会を原則禁止することで防ぐことができます。これはオンライン面会で代替できるのではないでしょうか。もし直接面会をさせるとなれば、予約制、検温の実施、発熱・体調の確認、マスク着用と飛沫防止シートの使用、面会者の人数と面会時間の制限等を徹底することです。それに食べ物(特に生もの)も持ち込み禁止とするべきでしょう。

出入り業者については、受付窓口を一元化し、来訪者の記録、立ち入り制限区域を設定するなど、防疫を強化することが必要でしょう。

問題は職員です。当然職員は自覚と使命感を持って職務に当たっています。しかし、感染者で無症状の人がいる以上、施設外で感染するリスクはゼロではないのです。ですから各自が感染防止対策を徹底するとともに、出勤前には検温や体調のセルフチェックを厳格に実施させるなど、出勤基準を徹底させることです。併せて家族に対しても協力を求めておく必要があります。

入所者については、定期的に検温の実施、体調の確認を行い、健康状態の変化を見逃さないようにすること、そして報告・連絡の徹底と情報の共有が必要でしょう。

外部支援を受けられる仕組みづくり

先の事例からもわかるように、介護施設で感染が発生した場合、感染者を指定医療機関に搬送できないことも考えれます。そうした場合、外部の医療機関等の助言やサポート、介護職員の応援を受けられるようにしておくことが大切です。

ですから、平素から行政や専門職団体、他の施設等と根回しや協議を行い、支援が受けられるような仕組みづくりをしておくことです。

そして応援を受ける場合、いろいろな場面を想定してシュミュレーションをしておき、派遣要請の方法、受け入れ準備がスムーズにできるようにしておくことです。

逆に応援者を出す場合にも備えておくことです。施設では人材不足が慢性化しています。そんな中で人手を割かれたら、自らの施設運営にも支障が出ることでしょう。しかし、困ったときはお互い様です。応援要請を受けた場合、どの職員を差し出すか、あらかじめ決めておく必要があります。その際、注意したいのは即戦力のある職員を差し出す必要があるということです。

初動対応のための整備、備蓄品の整備

入所者に発熱者が出た場合、感染を想定し、個室に移送(隔離)する必要があります。個室が不足している場合、個室以外で隔離する方法ないか、全員で知恵を出し合うことが必要です。

それに感染が発生した場合、ゾーニングも必要です。集団感染が発生した場合のことも想定しておくべきです。そして施設内で医療と介護を行うことも考えられます。

こうした場面を想定し、感染者(レッドゾーン)と未感染者のゾーンをどのように分けるか、職員の待機場所(セミクリーン)、対策本部(クリーン)をどのように分けるか、あらかじめ想定しておくことです。

これは医学的(疫学)見地から専門家の意見も必要ですから、事前にゾーニングの方法等について考え方を伺っておくことも必要かと思われます。

またマスクやフェイスガード、防護服、ゴーグル、消毒液等の感染防止物品をチェックし、不足品がないか、感染者が出た場合に備えて物品を充実させておくことです(国や県の助成や補助が充実してきている)。

それにレッドゾーンに入る際は防護服を着用することを基本とし、そのための着脱訓練や処分方法についても訓練しておく必要があります。

適正な対応への配意

施設管理者の皆さんは、入所者との契約に基づき、安全配慮義務が課せられています。その義務を怠り、損害を与えれば損害賠償を負うことになります。これが債務不履行による損害賠償責任です。

これまで自然災害(河川の氾濫によって施設が水没し、入所者が死亡したもの)であっても安全配慮義務を怠ったとして民事訴訟で争われた裁判例があります。

この新型コロナウイルス感染に関しても、入所者が感染を原因としてして死亡すれば、安全配慮義務違反が問われる可能性があります。施設管理者の皆さんは、このことにも配慮する必要があります。

ですから、新型コロナウイルスに「感染しない、感染させない」ために平素の対策をどうしていたか、感染が疑われるときに適正に対応したかどうかが問われます。

そのためには、施設で検討した感染防止対策の内容・職員に浸透させた方法、国や県等が示した通達の内容・職員に浸透させた方法、個々の対策の実践状況、感染防止物品の調達状況、職員のセルフチェックの状況、面会者のチェックと面会方法、来訪者のチェック状況、入所者の個別の健康状態のチェック状況、発熱者が出た場合の医師への受診状況、帰国者・接触者相談センターへの連絡状況、PCR検査の要請状況・・・等々、実施した内容をその都度記録に残し、証拠化しておくことです。

また入所者が発熱したり、感染が疑われた場合、それに対して行った措置やその後の方針、結果等を家族に連絡するとともに、併せて要望等も把握し、記録しておくことです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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