熱海の土石流被害
東海や関東地方を襲った集中豪雨により、7月3日午前10時30分頃、静岡県熱海市伊豆山で大規模な土石流が発生し、これまでに死者2名が確認され、数十名の方が安否不明だということです。
この地区一帯は土砂災害警戒区域に指定されており、ハザードマップでも土石流の可能性が高いと指摘されていた区域です。
現在、警察や消防、自衛隊による懸命の救出・捜索活動が行われていますが、二次災害の恐れがある上に広範囲に及んでいるため難航しているようです。ただただ安否不明者の無事が確認されるのを願うばかりです。
今回の土石流は、土砂の流出面積が10万㎥、倒壊、流出した家屋は少なくとも130棟に及んでいます。山間部で崩落した土砂が狭隘な逢初川に沿って時速約40㎞/hという早い速度で下っており、その映像がテレビ放映されていましたが、その凄まじい勢いに恐怖を感じずにはいられませんでした。
土石流と言えば、平成26年8月に発生した広島の土石流被害を思い出します。集中豪雨により同時多発的に大規模な土石流が発生し、77名の犠牲者が出ましたが、この災害は新興住宅地が密集する地域を襲った「都市型土砂災害」とも言われました。
わが国は国土の70%を山間部が占め、急傾斜地も数多く存在します。それに近年の地球温暖化の進行に伴い、ほとんどの地域で大雨の頻度が増加しています。特に梅雨や台風時期になると、大気の状態が不安定になり、積乱雲が次々と発生(いわゆる線状降水帯)し、集中豪雨をもたらしています。
大雨による土砂災害や浸水災害は全国どの地域で発生するかわかりません。大規模災害が発生する度に防災に関する気象情報のあり方も見直されています。私たちは、災害がいつ自分の身に降りかかるかわからないことを自覚し、防災意識を高めておく必要があるのです。
防災対策で何が重要か
私は、昭和57年7月に発生した長崎大水害を経験しました。今から40年前の出来事ですが、この水害での死者は299名でした。この災害での犠牲者は、地滑りや土石流によって家屋とともに流されたり、生き埋めとなったものです。
そのときの最大降水量は1時間に187mmを記録し、この数値はこれまでの国内観測史上最高記録です。当時の雨粒の大きさはピンポン玉にも匹敵するような異様な大きさで、そのときの光景は今でも鮮明に覚えています。
災害が発生したときは夕食の時間帯でした。停電によってテレビを見ることもできず、気象予報等の情報が全く入らず、暗がりの中で過ごしていた家族を土砂が襲ったのです。逃げる余裕などなかったものと思います。
私は警察部隊の一員としてすぐに救助活動、行方不明者の捜索活動等を行いましたが、どの現場も凄まじいもので、自然災害の脅威をまざまざと見せつけられました。
特に土石流の被害地区では、谷底の川に両側の山の崩落がなだれ込み、勢いを増した土石流が民家を次々とのみ込んでいきましたので、行方不明者の捜索は広範囲に及び、それだけ捜索も長引きました。
現在は、気象庁の予報の精度も高度化し、またSNS等のインターネット普及等により、誰もが気象に関する情報を迅速に入手できるようになっています。長崎大水害のときの情報入手方法・情報量と比較すると雲泥の差です。
しかし、情報を簡単に入手できる時代と言っても、毎年、自然災害による犠牲者が後を絶ちません。今回の熱海市の災害では、避難指示(レベル4)は発令されませんでしたが、それは予想降雨量、土壌雨量指数等に基づいてレベル4の発令まで達していないと判断したからだと思います。
もし、避難指示が発令されていたら犠牲がなかったのかと言えば、そうも言いきれません。最近の全国の災害犠事例を見ると、いくら避難指示が出ていたとしても、避難せずに犠牲になった事例はいくつもあります。逆に避難しても、結果的に何もなかったということもよくあることです。それだけ自然災害の発生を予測することは難しいことなのです。
いくら自治体が避難を促しても避難しないのは、「大丈夫だろう」という心理が大きく作用しているからでしょう。人は都合のいい解釈をしがちです。よく災害現場でインタビューを受けた人が、「まさかここまで水が来るとは」「今までこんなことはなかった」と答えているのを見かけます。
自然のサイクルに比べると、人のサイクルなどちっぽけなものです。その人の人生の中では経験したことがないかもしれませんが、自然のサイクルの中では大災害が発生していたかもしれません。それを知らないだけなのです。
東日本大震災での津波は1000年に一度の大津波だと言われました。近年では、そんな何年に一度の災害が現実に発生しています。過去、経験がなかったとしても、大災害がやってくる可能性はあるのです。
防災対策で大切なことは、臆病になることだと思っています。長崎大水害のときに大きな雨粒を見たとき、異様な恐ろしさを感じました。今回の熱海の災害で、被災者が「今まで見たことがない雨だった」と語っていましたが、おそらく大きな雨粒が降っていたのではないかと想像しています。現地の人は恐ろしさを感じていたのではないかと思います。
「これだけ雨が降れば、災害が発生するかもしれない。」、まずはそれを思うことです。自分の感情に素直になることです。例え、自治体の避難指示が発令されていなくても、これは危ないのではないかと感じたら、行動に移すことです。
ただし、夜間等は危険を伴いますので、ただやみくもに行動するのではなく、最善の方法を自分で判断しなければなりません。これが自分の命は自分で守るということなのです。