遺言は自分には関係ないと思っていませんか?
遺言書とは、死が目の前に迫ったときに作成するものだと思っていませんか?
それに自分には関係ないものだと思っていませんか?
遺言書とは、テレビドラマに出てくるような莫大な資産を持った孤独な老資産家の話ではありません。ごく普通の人にとっても必要とされるものです。
人は生前、自分の意思で自由に財産を処分できますが、万が一のことがあった場合、遺された家族たちは故人の意思を確かめることができません。
故人の意思を最大限尊重したくても、その意思を確認するすべがなければどうしようもありません。
そのときに「遺言書」が遺されていたなら、遺された家族は故人の意思を確認することができ、その内容に沿った形での財産の分配が可能になります。
遺言書を作成することによって、遺された家族たちに無用の心配をかけることが避けられます。
生前に遺言書を作成しておくことは、決して自分には全然関係ないことでも縁起でもないことでもありません。
遺される家族のための思いやりとして、そして安心を贈るために、遺言書を作成しておくことをお勧めします。
遺言とは
遺言(「いごん」または「ゆいごん」)とは、遺言を作る人(遺言者)が、自分の死後の法律関係(財産、身分など)を一定の方式に従って定める最終的な意思表示のことです。
わかりやすく言うと、自分が死んだときに、「財産を誰々に遺す」とか、「実は隠し子がいた」とかいったことを、死ぬ前に書いて遺しておくことです。
注意しなければならないのは、遺言の方式は法律で定められているので、それに反する遺言は無効になってしまいます。
遺言は死ぬ前であれば、いつでも本人の意思で自由に変更(撤回)することができます。もちろん、変更(撤回)するときも、法律上の決まりを守らなければいけません。
遺言で定めることができる内容も法律で決まっていますので、それ以外の事柄について定めても何の効力もありません。
もちろん、「他人の財産を息子にあげる」などといったことは認められません。
遺言で定められるのは、自分が持っている権利の範囲内のみということです。
遺言によって財産を与えることを「遺贈」といいます
これは、財産を受ける側の意思に関わりなく贈ることができますので、「あげます」、「はい、もらいます」という無償の契約である「贈与」とは法律上区別されています。
遺言によって被相続人の意思が明確に示されていれば、相続のトラブルの多くを防ぐことができます。
遺言でできること
遺言でできる事柄は法律で定められている一定の事項に限られます。
- 相続に関する事項
- 相続人の廃除・取消し
- 相続分の指定・指定の委託
- 遺産分割方法の指定・指定の委託
- 特別受益の持戻しの免除
- 相続以外の財産処分に関する事項
- 遺贈(相続人以外の人にすることも可能)
- 一般財団法人の設立
- 信託の設定
- 身分関係に関する事項
- 婚外子(非嫡出子)に対する認知
- 未成年者の後見人の指定、後見監督人の指定
- 遺言執行に関する事項
- 遺言執行者の指定・委託
- 遺言執行者の報酬・任務執行
など
遺言の方式
自筆証書遺言
遺言者が、遺言内容の全文、日付、氏名を自分で書いた上で押印したものです。
問題点として、内容の正確さや保管上の問題が問われます。
遺言執行の際には、家庭裁判所で「検認手続」をしなければなりません。
秘密証書遺言
遺言者が署名・押印した遺言書を封書にして公証人に提出したものです。
この場合は、自筆証書遺言と違い、本文は自筆でなくても構いません。
やはり、内容の正確さや検認手続の問題があります。
公正証書遺言
証人2人以上の立会いの下、遺言の内容を公証人に伝え、筆記してもらった上で、読み聞かせてもらい、その内容に間違いがないかを確認した上で署名・押印するものです。
検認手続が不要です。
この方式が一番お勧めです。
遺言書を作成すべきケース
次のようなケースでは、遺言書を作成することを強くお勧めします。
- 法定相続分と異なる配分をしたい場合
相続人それぞれの生活状況などに考慮した財産配分を指定できます。 - 遺産の種類・数量が多い場合
遺産分割協議では、財産配分の割合では合意しても、誰が何を取得(土地・株式・預貯金・現金など多様)するかについてはなかなかまとまらないものです。遺言書で指定しておけば紛争防止になります。 - 配偶者と兄弟姉妹が相続人になる場合
配偶者と義理の兄弟姉妹との協議はなかなか円満には進まないものです。
遺言書を作成することにより、全て配偶者に相続させることができます。 - 農家や個人事業主の場合
相続によって事業用資産が分散してしまっては経営が立ち行かなくなります。このような場合にも遺言書の作成が有効です。 - 相続人以外に財産を与えたい場合
内縁の配偶者、子の配偶者(息子の嫁)など、生前お世話になった人がいる。(遺言書がなければ不可能と考えてください。) - その他遺言書を作成すべき場合
- 元妻と後妻のそれぞれに子どもがいる
- 配偶者以外の者との間に子どもがいる(婚外子)
- 相続人の中に行方不明者や浪費者がいる
- 相続人同士の仲が悪い
自筆証書遺言保管制度
自筆証書遺言を法務局に保管する制度です。この制度は、遺言書の保管申請時に、民法で定める自筆証書遺言の形式に適合しているかどうか、法務局の外形的なチェックを受けられます。また、遺言書は、原本に加え、画像データも長期間適正に保管されることになります。
この制度のメリットは、法務局に保管することによって、遺言書を紛失したり、亡失させるおそれがないこと、相続人等の利害関係者による破棄、隠匿、改ざんなどを防ぐことができるという点が挙げられます。
この制度を活用することでどうなるかを見ていきましょう。
- 検認
この制度を利用すれば、相続開始後に家庭裁判所による検認が不要になります。ただし、チェックしてくれるのは形式面だけで、内容に関するアドバイスや法的事項の相談には応じてもらえませんので、注意が必要です。 - 本人自身による手続き
遺言者の意思に反する保管申請を防止するため、代理人による申請手続きはできません。 - 制度を利用する効果
・遺言書保管通知
相続人のうち、どなたかが保管場所において遺言書を閲覧したり、遺言書情報証明書の交付を受けた場合、その他の相続人全員に対し、遺言書を保管している旨の通知が届きます。
・指定者通知
遺言者があらかじめ通知を希望した場合は、通知対象者となった方に対し、遺言書が保管されている旨の通知が届きます。 - 申請する法務局
遺言者の住居地、遺言者の本籍地、遺言者の所有する不動産の所在地のいずれかを管轄する法務局です。 - 申請方法(必要書類等)
① 遺言書
② 保管申請書
③ 本籍と戸籍の筆頭者の記載ある住民票の写し
④ 顔写真付き身分証明書(運転免許証等)
⑤ 手数料(収入印紙を購入)
★ 事前に予約が必要です。
民事信託
わが国は、益々少子高齢化が進んでいます。総務省統計局によると、2024年9月現在、65歳以上の高齢人口は3,625万人で、総人口に占める割合は29.3%です。これは世界一です。
2025年には、高齢者5人に1人が認知症になると言われています。認知症とは、認知機能(記憶力・判断力等)が低下し、社会生活に支障をきたす状態を言います。認知症を患うと、事理弁識能力が不十分な状態になるため、法律行為ができなくなります。これが家族にとって大きな問題になるのです。
この認知症や相続対策として注目を集めている制度が民事信託です。いわゆる家族へ信託する制度(便宜上、家族信託と呼ぶことにします)です。家族信託とは、本人の判断能力が低下する前の備えとして、信頼できる家族に財産を託し、本人の希望に沿った管理や処分を家族に任せる制度です。
他の認知症対策として成年後見制度(任意後見、法定後見)があります。この後見制度は、本人のために財産を現状維持することを基本とし、財産の管理・処分に家庭裁判所や後見監督人による制約が生じてきます。
ただ、後見制度では認知症対策としてできることが、家族信託ではできないことがあります。それぞれにメリット、デメリットがあり、どちらが適しているとか、優れているとかというものでもありません。本人のために両者を併用(ハイブリッド)するというのも一つの選択です。
ここでは、民事信託(家族信託)についてご紹介します。
- 根拠 民事信託は、信託法に基づくものです。信託法は2006年に制定され、翌年に施行されました。 一方、投資信託は投資運用会社にお金を預け、専門家が株式や債券、金融資産などに投資して利益を得るもので、民事信託とは異なります(投資信託法等)
- 意義 信託とは、財産を有する人(委託者)が、特定の人(受託者)に財産を預けた(譲渡などの処分をした)財産について、受託者が一定の目的(信託目的)に従い、財産の管理、処分及びその目的達成のために必要な行為をすることです。信託法における「受益者」とは、受益権を有する人のことです。典型的な信託契約は、委託者と受益者が同一となるパターンが多く見られます。
- 信託財産とは 信託財産とは、受託者に属する財産であって、信託によって管理又は処分ができる財産をいいます。信託は、委託者が有していた財産を受託者に預け、それを受益者のために管理・処分することを本旨としますので、受託者に預けられた財産は受託者に属することになるのです。
- 信託のパターン 例えば、父親が所有していた賃貸アパートを長男に信託譲渡し、長男はその賃料収入から父親に生活費を受益権として渡し、父親が死亡したら、母親が次の受益者となって、引き続き賃料から生活費を受け取る、母親も死亡したら、信託は終了し、長男が帰属権利者としてアパートを固有財産として継承するという信託がみられます。 このように、信託契約は、特定の財産を委託者から受託者に移転し、受益者のためにその財産の管理・処分を委ねるものです。
- 民事信託の特徴 信託財産の所有権は受託者に移転しますので、その財産に関するものであれば、契約の趣旨に反しない限り、賃貸や売却等のほか、家屋の建替えや修復などもできます。中でも、大きな特徴としては、倒産隔離機能があります。これは、委託者の債権者はもとより、受託者の固有の債務による強制執行を受けることがありません(法23条1項)。 そのため、受託者は、固有の財産と区別して管理しなければなりません(例えば、信託口口座)。
- 民事信託を活用する例
例えば、夫が自宅の土地・建物を妻に相続させ、その妻が死亡した場合には長男に相続させたい場合、これを1通の遺言書に記載したとします。夫が死亡すれば、一旦妻が相続することになりますが、その後、妻が長女に相続させたいと思えば、それは妻の自由であり、夫の後追い遺言の部分は単なる希望にすぎません。 法91条には、跡継ぎ遺贈型受益者連続信託を一定の要件のもとに認めています。従って、これを活用すれば夫の希望を叶えることができます。先の事例では、夫が自分の死後に自分の土地・建物に無償で居住できる受益権者を妻とし、妻亡き後は新たに受益権者を長男とする信託を設定しておけば希望が叶えられるということです。 - 遺言との比較
遺言では、単に死亡後の財産継承について規定しており、負担付遺贈(民法1002条)の場合を除けば、跡継ぎ遺贈型受益者連続信託のような効果は望めません。民事信託であれば、法91条を使えばそれが可能になります。民事信託では、信託財産から得られる価値を受益権の形で世代を超えて連続させることが可能になるのです。
★ 認知症対策・相続対策として民事信託を活用することは有効な手段となります。しかし、民事信託では後見制度のように本人の身上監護ができないなど、万能な制度ではありませんので、それらの点を踏まえた上で検討する価値はあると思います。
事業承継のための信託契約
会社経営者が高齢になってきたため、息子に経営を引き継ぎたいと考えているが、その息子はまだ経験が浅く、すぐに息子に経営権を譲渡することに不安を感じている方は多いでしょう。
そこで、円滑に息子に事業承継するためにはどのような方法があるのか。その一つに信託契約を利用する方法があります。例えば、会社を経営しているAさんが、自分の甲会社を子どものBさんに事業承継を考えているとします。
- 株式の信託譲渡
このような場合、Aさんを委託者、Bさんを受託者として、信託財産をAさんが保有する甲会社の株式とします。受益権者がAさんとなるため、甲会社の剰余金等の経済的利益をAさんが取得することになります。 - 対抗要件
株式については、当該株式が信託財産に属する旨を株式名簿に記載し、又は記録しなければ、当該株式が信託財産に属することを株式会社その他の第三者に対抗することができません(会社法154条の2第1項)。甲会社が個人会社であれば、株券も発行していなでしょうから、対抗要件として株主名簿への記載が必要です。
委託者及び受託者は、会社に対し、株主名簿に受託者の氏名及び住所を記載すること、及びその株式が信託財産に属することを株主名簿に記載するよう請求する旨(同条2項)の条項を信託契約に記載しておくべきです。 - 譲渡制限
甲会社が個人会社の場合には、株主を限定したいとの要請が強うと思われますので、株式の譲渡に会社の承認を必要とする譲渡制限株式(同法2条17号)としているでしょうから、信託条項に「委託者は、信託契約締結後に、速やかに甲株式会社の承認を受けなければならない」と記載しておく必要があります。 - まだ経営権を掌握したい
Aさんはまだ会社の経営権を掌握したが、株式をBさんに信託譲渡すると、株主総会の議決権の行使もBさんに移ってしまいます。この場合は、委託者のAさんが、信託契約の中で指図権を有し、Bさんは委託者の指示に従う旨定めておけば、実質的にAさんが経営に参画することが可能です。ただし、指図権行使もいつまでもするというわけにはいきませんから(Bさんに譲渡する意味がない)、行使の期限を定めておく方がいいでしょう。
任意後見制度
任意後見制度は、認知症や精神障害などで判断能力が不十分になった方を保護し、支援する制度です。
私たちが社会生活を送る上では、例えば物の売買、預貯金の出し入れ、売却等の処分、会社との雇用契約、医療機関への入院契約、高齢者施設等への入所契約・介護契約等さまざまな法律行為が行われていますが、これらの行為を行うための十分な判断能力が備わっていないと、本人の生活に支障をきたすことになります。
本人の判断能力が不十分だと正しい判断ができず、不利益な契約であることを理解できないまま、契約を締結しまったり、訪問販売やニセ電話詐欺の被害に遭い、貴重な財産を失ってしまうおそれがあります。
成年後見制度は、本人が認知症等になった場合に、関係する方からの請求に基づき、家庭裁判所が選任する法定後見と、本人の判断能力が備わっているときに、将来の認知症等に備え、あらかじめ後見人を選んでおく任意後見があります。
- 任意後見契約の手続き
任意後見契約は公正証書によってしなけらばならないことになっています(任意後見契約に関する法律3条)。
公正証書によらなければならにのは、法的な深い知識を経験を持つ公証人が中立的な立場で、本人の意思に基づいて契約するものであることを確認し、その契約が有効であることを確保することを制度的に保証するものです。 - 後見人の主な職務
後見人は、本人の財産の全般的な管理権と代理権を有します。従って、本人の意思を尊重し、かつ、本人の心身の状態と生活状況を配慮しながら財産を適正に管理していくことになります。
そして、それらの内容がわかるように記録しておくとともに、定期的に家庭裁判所に報告しなければなりません。
具体的には、本人の財産が他人のものと混同しないようにする、通帳や証書類を保管する、収支計画を立てる等の財産管理を行うとともに、本人に代わって、預貯金に関する取引、入院や介護等に関する契約の締結等を行います。 - 任意後見契約の内容
誰を任意後見人として選ぶか、その後見人にどのような仕事をしてもらうか、どのような事柄に代理権を与えるか、それは本人と任意後見人になる人との話し合いにより自由に決めることができます。任意後見人の報酬を定めるか、無報酬にするか、当事者の合意で決めることができます。 - 移行型任意後見契約
高齢や病気療養中の方の中には、まだ判断能力は低下していないが、病気や身体機能の低下により、自力では財産管理や生活・療養看護に関することが困難な方もいらっしゃいます。このような方のために移行型任意後見契約が利用できます。
移行型任意後見契約は、財産管理と事務を委任する契約(委任契約)を任意後見契約と同時に結ぶもので、本人の判断能力が低下していない間は、委任契約に基づい財産管理等を行い、本人の判断能力が低下してときに任意後見契約に移行し、その契約に基づいて財産管理等を行うものです。 - 任意後見人になれる方
法律で任意後見人になれないと規定されている方以外は、成人であれば誰でも後見人になることができます。本人の子、兄弟姉妹、その他の親族や友人でも構いません。親族に適任者がいない場合は、弁護士、司法書士、行政書士、社会福祉士などの専門家や社会福祉協議会、社会福祉法人などの法人を選任することもできます。 - 任意後見の開始時期
任意後見人として財産管理等を行うのは、任意後見契約締結後、本人の判断能力が低下した状態になり、家庭裁判所が任意後見監督人を選任したときからです。任意後見監督人を選任してもらうためには、任意後見契約で任意後見監督人になることを引き受けた方(任意後見受任者)などが、家庭裁判所に申立てをしなければなりません。 - 任意後見契約をやめたい場合
家庭裁判所が任意後見監督人を選任する前は、いつでもどちらからでも任意後見契約を解除することができます。任意後見監督人が選任された後は、正当な理由がある場合に限り、家庭裁判所の許可を得て解除することになります。
任意後見契約と信託契約の違い
上記のとおり、認知症になった場合に備え、任意後見契約を締結することもありますが、他方で、民事信託も認知症対策に利用されることがあります。認知症対策に利用可能な任意後見契約と信託契約の違いを見てみたいと思います。
- 基本的な違い
任意後見契約も信託契約も共に委託者本人の意思に基づく財産管理を目的としています。任意後見契約は、財産管理の委任だけではなく、生活や療養看護に関する事務(身上保護)も含まれます。これに対して、信託契約は専ら財産管理を目的としています。 - 契約の効力発生
信託契約は、原則として契約締結時から効力が発生します。これに対して、任意後見契約は、将来、委任者が認知症等で認知機能が不十分となったときに、申立てにより家庭裁判所が任意後見監督人を選任する審判があったときから任意後見契約の効力が発生します。 - 対象財産
信託契約では、不動産は信託を原因として受託者へ所有権移転登記がされ、現金は受託者名義(信託口口座)で管理されます。但し、実質的には所有権は委託者のままだということを理解する必要があります。
対象財産にも違いがあります。信託契約では特定の財産を選択して信託財産とすることができます。任意後見契約では、任意後見人にどのような範囲の代理権を与えるか委任者が自由に設定できることになっていますが、実際は、全ての財産につき管理を委ねという包括的代理権を与えていることが多いようです。
信託契約では、譲渡制限がある財産は信託財産とはならず、例えば、農地や年金受給権は信託財産とはなりません。これに対し、任意後見契約ではこれらの財産も管理対象に含めることが可能です。
一方、信託契約では、信託財産の不動産を担保として銀行から借入したり、投資のために不動産を売買するなど、財産の積極的活用が可能となります。これに対し、任意後見契約では、財産の積極的活用は困難だと思った方がいいでしょう。また、信託契約では、信託財産につき帰属権利者等を決めておき、財産の承継が可能となりますが、任意後見契約では、財産の承継を決めることはできません。 - 監督人
任意後見契約では、申立てにより裁判所から選任される任意後見監督人がいて、任意後見人を監督するという仕組みになっていますが、信託契約ではその仕組みがありません。そのため、受託者が自己のために財産を費消する危険もあります。そこで、信託契約では、信託監督人や受益者代理人等を決めておき、受託者を監督することが可能です。 - 専門職の就任
任意後見人には弁護士、司法書士、行政書士等の専門職の者もなれますが、信託契約では、専門職が受託者となる場合、業として行うことになるため、内閣総理大臣の免許を受けなければならず、その免許がない以上、受託者となることはできません。但し、信託監督人や受益者代理人にはなることは可能です。 - まとめ
任意後見契約、信託契約では、大きく分けると、財産管理、財産承継のいずれを目的とするかによって違いがありますが、目的はそればかりではありません。従って、どの制度をどのように利用するか、それとも双方を利用するのか、実態と照らし合わせながら、検討する必要があります。
任意後見契約締結後の法定後見申立て
任意後見契約と法定後見は併用することができません。任意後見契約に関する法律(以下「任意後見法」という。)10条には、「任意後見契約が登記されている場合には、家庭裁判所は、本人の利益ため特に必要があると認めるときに限り、後見開始の審判等をすることができる」と定められています。つまり、任意後見契約が登記されているときに、法定後見開始の審判をするためには特別の必要性が要件とされており、任意後見が法定後見に優先していることを表しています。
これは、本人の自己決定権を尊重するという考えがあるからです。それでは、任意後見から法定後見に移行できる「特別の必要性」があるとはどういうことか。任意後見法の制定趣旨の見解によれば、次のとおりです。
まず、本人が任意後見人に授権した代理権の範囲が狭すぎ、他の法律行為について法定代理権の付与が必要であるが、本人の精神状況等により任意の授権が困難な状態にある場合です。例えば、代理権目録が限定的であり、不動産の処分が記載されていないが、介護施設への入所のため、自宅を売却する必要が生じた場合などが考えられます。
次に、同意権・取消権による本人の保護が必要な場合です。任意後見では、本人が行った行為について、法定後見と同様の同意権・取消権(民法9条、13条)がありません。例えば、本人が高価な物品を購入したり、詐欺等の被害に遭ったりするおそれがある場合には、本人の保護を万全にするため、任意後見締結後でも、取消権の必要があるときには法定後見を申し立てることになります。
その他には、推定相続人間に対立があったり、任意後見受任者になっている者の財産管理に問題がある場合も考えれます。例えば、任意後見受任者が本人の預貯金を引き出したり、本人の不動産を自分の利益のために売却するなど、本人の財産を不当に取得するような場合や財産管理が杜撰な場合には、他の親族等の申立により特別の必要性が認められた事例もあります。
本人がその人を任意後見人に選んだという自己決定権は尊重されなければなりませんが、上記のような問題も現実に発生しているため、任意後見と法定後見のどちらが本人のためになるか、それを比較衡量することも大切だということです。
配偶者居住権
配偶者居住権とは、夫婦の一方が亡くなった死場合に、残された配偶者が、亡くなった方が所有していた建物に、その配偶者が亡くなるまで、又は一定期間、無償で居住することができる権利です。
この権利は、夫婦の一方が亡くなった場合に、残された配偶者が住み慣れた建物に住み続けることができるよう、配偶者を保護するためにできた制度です(R2.4.1施行)。
- 建物の評価額
配偶者居住権は、その評価額を「所有権」と「居住権」に分け、残された配偶者は建物を所有していなくても、一定の条件の下で居住権を取得するものです。 - 成立要件
下記の①~③の要件をすべて満たす必要がります。
① 残された配偶者が、亡くなった方(被相続人)の法律上の配偶者であること
② 亡くなった方(被相続人)が所有する建物に、相続開始時に居住していたこと
③ 遺産分割、遺贈、死因贈与、家庭裁判所の審判、このいずれかによって配偶者居
住権を取得したこと - 配偶者居住権の事例
例えば、夫が亡くなり、妻と子が遺産分割する場合、法定相続分は、妻が1/2、子が1/2となります。このとき、夫の遺産が、2,000万円の建物と現金が3,000万円あったとします。改正前は、妻が建物(2,000万円)を相続した場合、現金は500万円のみです。子は2,500万円の現金を相続することになります。これでは、いくら妻が建物に住み続けるとしても、生活費が足りなくなります。
改正後は、子が建物を相続した場合、妻は配偶者居住権1,000万円(相続税法により、居住権評価の算定方法が規定された)を取得し、なおも現金1,500万円を相続するということになります。 - 第三者への対抗要件
配偶者居住権を第三者に対応するためには登記が必要です。建物の所有者は、配偶者に対して配偶者居住権の登記をさせる義務を負っています。
配偶者居住権の設定登記は、配偶者(権利者)と建物の所有者(義務者)が共同で申請することになります。配偶者居住権の設定登記ができるのは建物だけであり、敷地の土地には登記できません。また、亡くなった方が、建物を配偶者以外の人と共有していた場合は、配偶者居住権の対象となりません。 - 配偶者短期居住権
配偶者短期居住権とは、例えば、亡くなった夫の建物に妻が居住していた場合、遺産分割協議が終了するまでか、若しくは協議が早くまとまったとしても、被相続人が亡くなってから6か月間は無償で建物に住み続けることができる権利です。
配偶者短期居住権は登記することはできません。
遺言執行者
遺言執行者とは、遺言のとおり手続きを進める人のことです。遺言執行者は遺言者の相続人が行うのが通常ですが、相続人間で意見が合わなかったり、協力しない相続人がいると円滑な遺言執行ができないおそれがあります。そこで、民法は、遺言執行を適正迅速に行うために遺言執行者の制度を設けています。
- 遺言執行者の指定・委託
遺言者は、遺言で、1人又は数人の遺言執行者を指定し、又はその指定を第三者に委託することができます(民法1006条1項)。従って、生前契約によって遺言執行者を決めたり、被相続人の代理人による遺言執行者の指定は認められません。 - 遺言執行者になれる方
未成年者と破産者は除かれます(民法1009条)。それ以外は誰でもなれます。相続人、受遺者、法人も遺言執行者として指定することができます。 - 遺言執行者の権限
遺言執行者は、遺言の内容を実現するため、相続財産の管理その他遺言の執行に必要な一切の行為をする権利・義務を有しています(民法1012条1項)。
さらに、遺言執行者がある場合には、相続人は、相続財産の処分その他遺言の執行を妨げる行為をしてはなりません(民法1013条1項)。
このように、民法は遺言執行者に幅広い権限を権限を与えていますので、遺言を円滑に執行するためには、遺言で遺言執行者を指定しておくが大切です。 - 遺言執行者の指定に当たって留意すべきこと
民法1007条1項は、「遺言執行者が就職を承諾したときは、直ちに任務を行わなけらばならない」と規定していますが、遺言執行に指定された方に承諾義務はありません。従って、遺言者が遺言で遺言執行者を指定するときは、あらかじめその方から遺言執行者の就職の承諾を得ておくことが肝要です。 - 遺言執行者が執行できない場合はどうするか
遺言者が死亡した後に遺言執行者が死亡した場合や遺言者が生存中でも遺言者に遺言能力がなくなった場合など、そんなときにどうすればいいかという問題です。
そのような場合には、相続人や受遺者等の利害関係人は、家庭裁判所に遺言執行者の選任の請求をして新たな遺言執行者を選任してもらうということになります(民法1010条)。 - 特定財産承継遺言
遺産分割の方法として、特定財産を共同相続人の一人又は数人に継承させる遺言の場合は、法定相続分を超えて承継した部分については、先に相続登記しないと第三者に対抗できません。民法1014条2項は、対抗要件を備えさせるための権限を遺言執行者に与えています。 - 相続人以外の方に不動産を遺贈する場合
相続人以外の方に不動産を遺贈する場合は、遺言執行者を指定した方が無難です。相続人以外の方への遺贈は、受遺者は登記義務者である相続人全員を相手に移転登記申請をしなければならず、手間がかかるからです。遺言執行者がいれば、その遺言執行者だけが相手となりますので軽減されます。その受遺者を遺言執行者に定めておけば、受遺者である自身を代理して移転登記の申請をすることもできます。 - 遺言執行者の任務
遺言執行者が任務を開始したときは、遅滞なく遺言の内容を相続人に通知しなければなりません(民法1007条2項)。相続人としては、遺言の内容や遺言執行者の存否は重大な利害関係に係わるからです。