行政書士が日々扱う業務の中に契約書の作成がある。中でも「金銭消費貸借契約書」の作成依頼がダントツに多い。それでけ、世の中には金の貸し借りが多いという証だろう。
人々の生活の中では契約が欠かせない。その契約は、大別すると諾成契約と要物契約がある。諾成契約とは、例えば、「売りましょう」「飼いましょう」との当事者間の意思表示の合意のみで成立する。一方、要物契約とは、物の引渡しをもって成立する契約である。
民法587条の消費貸借契約はまさにこの要物契約であり、契約が成立するには金銭の授受が必要だった。ところが、改正民法587条の2の新設により、諾成的消費貸借契約が条文上明記され、これによって金銭の授受がなくても、消費貸借契約を締結することが可能となったのである。ただし、諾成的消費貸借は書面で行わなければならないことになっている。
ここで金銭消費貸借契約に孕む問題点を見てみよう。貸した金を返さないということはよくあること。それではどのようにして返してもらえるか。返さない人から返してもらう手続きは強制執行しかない。ところが、当事者間だけで交わした契約では、裁判所に訴えを提起しなければ強制執行ができず、それに手間暇がかかってしまう。そこで登場するのが公正証書という武器だ。
強制執行は債務名義によって行うことになっている(民事執行法22条)。債務名義とは強制執行を行う際に必要となる債権の存在と内容を公的に証明する文書ということになる。その資格を得られているものの一つに公正証書がある(同条5号)。公正証書による金銭消費貸借契約書を作成するメリットは、貸した金を返してもらえないとき、裁判所に訴えを提起しなくても、公正証書が債務名義となって強制執行ができるのである。
ただし、公正証書で強制執行ができるようにするためには要件が必要となる。それは①給付文言及び強制執行認諾文が入った公正証書、②執行文の付与、③債務者への送達の3つを指す。
①については、「乙は甲に対し、令和〇年〇月〇日に限り、〇〇万円を支払う。」という給付文言と「乙は金銭の支払いを怠ったときは直ちに強制執行に服する。」という執行認諾文書が記載されていることが必要となる(同法22条5号)。②については、「債権者甲は、債務者乙に対し、この公正証書によって強制執行ができる。」という公証人による執行文の付与が必要となる(同法26条)。③については、債務者に対する債務名義の謄本等の送達が必要となる(同法29条)。
それでは、諾成的消費貸借契約公正証書でも上記の要件を満たしていれば強制執行ができるのだろうか。要物契約である消費貸借契約公正証書では金銭の授受があることを前提としているため、借主が返済しなければ、その公正証書によって強制執行ができることになるが、諾成的消費貸借契約公正証書では、金銭の授受がない段階での契約であるため、その公正証書では強制執行ができないと解釈されている。従って、執行力を付与するためには、金銭の授受が行われた後、改めて、強制執行認諾文が記載された金銭消費貸借契約公正証書を作成する必要がある。
金銭消費貸借において、債務者が金銭の支払いを怠った場合、裁判所に訴えを提起するには多大な時間と労力と知識が必要である。費用がかかったとしても、先のことを見通し、契約の段階で公正証書を作成することがベターだと言える。